気象ブックス 043 レーダで洪水を予測する 

BK-22301

気象ブックス 043 レーダで洪水を予測する 

(BK-22301)

中尾忠彦 著 A5判 192ページ

河川の洪水や氾濫を予測するための技術を紹介。川に流れる水は、その地に降った雨よりも上流から流れてきたものの集積が主である。そのため、河川の上流の降雨と、現地の水位変化の予測が求められる。そのためには、地上に降った雨を測る雨量計よりも、これから降りそうな雨量を予測するレーダ雨量計が有効であり、本書ではその仕組みと活用法を中心に解説する。
氾濫の予測と浸水区域の推定、避難勧告の判断要素など、非常時の行動をまとめ、平時の対策として、ハザードマップの作り方と読み方などを解説。

【はじめに】
昨年も、今年も、洪水被害が繰り返されている。
洪水被害を防ぐため、河川では堤防を築き、ダムで洪水の水を溜めるなどの対策を歴史始まって以来、営々として続けてきた。
構造物による対策で被害は減ってきているが、被害の恐れのある土地をすべて構造物で守ることはできない。これは有史以来、洪水防御のための構造物を作り続けてきた日本において立証されている。まして開発途上国において構造物による洪水対策を急速に進めることは困難である。
堤防やダムなどの構造物による洪水対策と並んで、構造物によらない洪水対策がある。そして、構造物による洪水対策を進めるときも、構造物によらない洪水対策を同時に進める必要がある。いわゆる車の両輪である。
構造物によらない洪水対策の中心は洪水という現象から避けること、逃げることである。洪水が起きる河川敷に入らないこと、洪水が氾濫したときには氾濫水から逃げるわけである。
洪水を避けたり、洪水から逃げたりするためには、洪水がどのように、いつ起きるかを予測しなければならない。
洪水予測である。
洪水予測は、構造物によらないで洪水対策を行うときに欠かせないことであるが、構造物による洪水対策においても、より効果的に構造物を活用するため、あるいは堤防などが破壊しないように応急措置をとるためにも欠かせない。
このように、洪水予測、ひいては平常時にも河川を流れる水量(流量)を予測することは、河川・水問題を解決しようとするとき、常に必要となる技術である。
自然災害には地震などまだまだ予測にはほど遠いものもあるが、水害は予測できる。被害を完全に防ぐことは難しくても、生命を守ることは何とかできる。水害は「予測できる」という段階ではなく、「予測する」という業務を関係機関が日々行っている。長年にわたってその業務の一端を担ってきた者として、毎年水害が起きて、亡くなる人が絶えないのが残念でならない。
日本では上流でダムの建設、中流部で遊水地による洪水調節、また堤防の建設などの施設整備が進んできて、これ以上の被害軽減、とりわけ死者数を減らすためには、市町村など責任ある組織で水害対策を担当する人も、住民自身も、情報を活かして対応するほかないと思われる。
情報はすでにかなりの量・質で容易に入手できるようになっているが、それら情報が存在し、提供されていること、その情報をどのように行動に活かすか、ということについてまだ十分に広く知られていないという思いがあって、この本を書くこととした。
本書では、河川や水路が洪水になって水が沿岸に溢れて氾濫することによって生じる水害を取り扱う。洪水の氾濫によって生じる水害の発生機構はおおむねわかっており、その基礎データも容易に入手できるようになっているからである。
河川の氾濫による水害の予測は、できるかどうか、という段階ではなく、現在すでに日常業務として行われていることである。長期的な予測に基づいてダムや堤防など構造物が計画され、建設されており、雨量・水位などの観測網が整備され、それに基づいた洪水予測が行われている。しかし、現時点において洪水氾濫現象も多彩であって、あらゆる水害に対応することは人的資源の問題もあってできていない。そこで生命を守るためには、氾濫被害を受ける可能性のある人たちにも何らかの予備知識を持って洪水予報などの情報に耳をすまし、また急を争う場合には個人個人での判断で行動することが必要になる。判断の基礎となる情報はレーダ情報をはじめとして、すでにいろいろなメディアを通じて公表されているので活用してほしいものである。本書では、洪水予報のもととなっている洪水の予測を中心とするが、洪水予測の精度を高めるために整備されているレーダ雨量計についてもできるだけていねいに説明したい。
以下、第1章では「レーダ情報でいのちを守る」と題して、危険が差し迫ったときにレーダ情報を活用して自分の命を守る方法、心構えについて述べる。第2章では、「レーダ雨量計の原理と特性」として、現在の洪水予測に不可欠なレーダ情報の原理と特性を、筆者も携わった国土交通省の「川の防災情報」で提供されているシステムを中心に説明する。第3章では、「生命・財産を守る洪水予報」として、予報・警報を発表する立場から留意点を述べ、最近の洪水予測システムを紹介した。筆者の知見も限られているので、かつての同僚など面識のある人々の仕事にとどめているが、発表情報を受ける人にとっても舞台裏の状況を知ることが情報内容のより良い理解につながるものと考えている。第4章では、「洪水ハザードマップを活用する」として、長期的な洪水予測によって作成されるハザードマップについて、特にその読み方について解説した。
この本は、水害の発生が予測されているところに住む人、そういうところに行く可能性のある人(とは、実質的にすべての人)、避難の勧告・指示などの責任を担う首長とそのもとで実務に携わる人を念頭に書いた。さらに、国や都道府県の担当部局でより高度な技術を駆使して洪水予報に当たる人々、また具体のシステムを構築するコンサルタントなどすでに専門知識のある人々にとっても、基礎的な事項を再確認する手助けになれば、と期待している。

平成29年9月
中尾忠彦

【目次】
第1章 レーダ情報で命を守る

1.1 地形を見る 集水域
上流の見えない川
トンネル河川
立体地形図の応用 呑川の例
1.2 水害のかたち
氾濫被害を受ける原因とその状況
1.3 レーダ雨量情報を活用する
XRAINでレーダに慣れる
レーダ情報の見方
1.4 突発的な集中豪雨時のレーダ雨量計観測状況
2008年7月神戸市都賀川の水難事故
2008年7月の東京都大田区呑川の場合
1.5 線状降水帯など長時間続いた豪雨の観測
1998年栃木・福島豪雨の例
2009年8月の兵庫県佐用町の場合
2014年8月広島豪雨の例
コラム 土砂災害の予測

第2章 レーダ雨量計の原理と特性
2.1 レーダ雨量計の原理
Cバンドレーダ
Xバンドレーダ
従来型レーダの観測方式
キャリブレーション
ビーム高度
従来型レーダの合成
新型マルチパラメータレーダ
マルチパラメータレーダの合成
フェーズドアレイレーダなど
2.2 レーダ雨量計の特性と運用
空中と地上の違い
レーダによる集水域平均雨量
ダイナミックウインドウ法によるレーダのキャリブレーション
キャリブレーションに要する時間
2.3 レーダの優位性
高い空間・時間解像度の観測
地上雨量計が少ないか、存在しない場合
コラム レーダ雨量計の開発

第3章 水防と早期避難のための洪水予測
3.1 洪水予測の手法
日本の水文観測網
流域
洪水予測の基準点
予測のリードタイム
点の予測から線の予測へ
面の予測
3.2 流量の予測
降雨予測
累加雨量の推定と予測
線状降水帯の予測
分布型流出モデル
3.3 水位の予測
雨量からの直接予測
水位予測に求められる精度
水位流量曲線
結果の解釈
3.4 情報の伝達
電話
ファクシミリ
ICT技術
放送
コラム 世界の河川の洪水流量
3.5 洪水予測システムの実際 レーダ雨量計情報を利用したアラームメールシステム
淡水河の洪水予報システム
レーダ雨量計データを用いた分布型洪水予測システム
チャオプラヤ川の緊急洪水予測システム
画面の設計
他の地方への展開
IFASによるインダス川本川上流域の洪水予報
コラム 避難は明るいうちに

第4章 洪水ハザードマップ
4.1 ハザードマップを作るときの技術的な問題 ハザードマップの仮定
4.2 地形からハザードを予見し、長期的な対応を考える
2016年8月岩手県岩泉町小本川の洪水
長期的な洪水対策
国土地理院のメッシュ標高地図の活用
コラム ハザードマップの想定
4.3 分家の災害から考える危険を認識した住まい方

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